鏡視下食道癌手術について

鏡視下手術は近年になって登場してきた新しい治療法で、胸やお腹の壁に小さな穴をいくつか開けて、小さなテレビカメラを胸腔や腹腔に持ち込んで術野を観察しながら、細長い手術道具でテレビモニターを見ながら手術を行なう方法です。これによる食道癌の手術は1990年代半ばすぎから一部で開始されましたが、「食道癌治療ガイドライン」では現在のところ「試みとしての治療」と位置づけられています。
胸腔鏡補助下(VATS)の食道癌手術については様々な見解があります。数年前まで、私たちは多くの当時の食道専門医と同様に、この方法で開胸手術と全く同等な精度の手術が可能であるとは考えておらず、食道癌手術の、おなかの部分についてだけ、腹腔鏡を補助的に使って約7cmの縦の創と5mm〜1cmの創2個で行う「用手補助腹腔鏡手術」(HALS: Hand-Assisted Laparoscopic Surgery)のみを導入していました。しかしこの分野のパイオニアたちの手術が次第に完成度の高いものになってきたことを認識し、また自分たちでも実験動物での確認作業を行い、「通常開胸・胸腔鏡併用」という中間ステップを経て、2006年より、小開胸創併設の胸腔鏡下食道癌手術を開始しました。そして、すでに100例を超える胸腔鏡補助下(VATS)食道癌手術の経験を積んできました。
当然ながら鏡視下手術自体が自己目的ではありませんから、これまでの開胸食道癌手術の経験を踏まえて、開胸術に比べて遜色のない根治性を持った鏡視下手術が可能であると考えられる場合にのみ、このような型式で手術を完了するように心がけています。 もちろん、科学的に厳密に言えば「本当に同等の手術か」と言うことは、比較試験を行ってから、少なくとも長期成績を見てからでなければ断定できません。ですから胸腔鏡補助下(VATS)食道癌手術は公式には依然として「試みとしての治療」という位置づけにはなろうかと思います。しかし、これまで発表されている胸腔鏡補助下(VATS)食道癌手術に関する報告を検討すると、その根治性(どのくらいきちんとリンパ節を取り除くことができているか)の指標の面から見ても、またこれまでの治療成績からみても、従来の開胸術の成績と遜色はなく、我々自身のデータも同様の結果となっています。それだけでなく、
・ 胸腔鏡を使用することにより、小さい構造も拡大して観察することができる効果、
・ カメラの位置の移動により、通常開胸では不可能な位置から術野を観察できる効果、
・ 手術に参加しているすべての スタッフが同じ画像を確認しながら作業できることの効果
など、鏡視下手術ならではの利点も色々と明らかになってきました。
開胸創の縮小は術後早期の創痛を少しでも軽減し、長期経過後の後遺症としての疼痛も軽減する可能性が高いですから、条件がそろい、何よりも同意の得られた患者さんには、慎重かつ積極的にこの手術を行ってゆこうと考えています。 現在私たちは、術前治療として放射線治療のなされた患者さんと、腫瘍がかなり大きくて周囲から剥がすことが大変そうな患者さん以外では、基本的にまず胸腔鏡手術を試みることにしています。そのような方針の下、この方法で手術を始めた人のほぼ9割で、胸腔鏡手術で食道癌手術を完了できています。