急性腹症

急性腹症とは  急性腹症とは“腹痛が急激に出現し、緊急手術の必要性がある腹部の急性炎症性疾患の総称”です。具体的には「急性虫垂炎」、「憩室炎」、「消化管穿孔」といった疾患名が付けられるはずですが、必ずしも診断が完全に突き詰められる場合ばかりではないので、「急性腹症」と一括されます。時代の変遷と共に、必ずしもすべての急性腹症疾患で手術を必要とするものではなくなって来ており、現在では「腹痛を主徴とし、早急に治療方針をたてる必要がある腹部疾患」と考えています。

この中に含まれる疾患を原因別に分類すると
1. 胃十二指腸潰瘍の穿孔
2. 急性胆嚢炎
3. 急性膵炎
4. 急性虫垂炎
5. 大腸憩室炎
6. 腸閉塞
7. 腹部の血管病変:上腸間膜動脈(静脈)血栓症、腹部大動脈瘤破裂
8. 泌尿器疾患:腎・尿管結石
9. 婦人科疾患:子宮外妊娠、卵巣嚢腫の茎捻転、急性卵管炎
10. 悪性腫瘍によるもの

などが考えられます。急性腹症の場合、時間とともに症状が増悪していくため限られた時間でできるだけ適切な診断を行い、原因を除去するため迅速に治療を行わなければなりません。しかし実際には、必ずしもいつも確定診断に至ることができるわけではありません。そのような場合でも症状から、このまま時間をかけていると状態が増悪して重大な事態に立ち至ると推測される場合には、緊急手術に踏み切る必要があることもあります。この場合多くは手術所見で診断が明らかとなり、それに対する治療を行いますが、手術を行ってもなお診断が確定せず、状況に応じた危険回避の方策(腹腔ドレナージ術など)のみが取られる場合もあり得ます。

急性腹症の診断

 以下に急性腹症の原因を診断するために行われる可能性のある検査について説明します。
1. 触診:腹部の診察で多くの情報が得られます。腹痛の部を押されますが、これにより緊急手術を行うかどうかの判断をすることがあります。
2. 血液検査:炎症反応の程度、肝臓、膵臓、腎臓などの機能検査(胆嚢炎、膵炎、腎結石)、貧血の程度(消化管出血、腹腔内出血)を評価します。
3. 尿検査:血尿(腎・尿管結石)、尿中アミラーゼ(膵炎)をチェックします。
4. 胸部・腹部レントゲン検査:異常ガス像のチェックなどをします。
5. 腹部超音波検査:腹水、虫垂腫大、膵炎、胆嚢炎、水腎症などの診断に有用です。
6. 腹部CT:特に造影剤を使用した造影CTは有用で、虫垂腫大、胆嚢炎、膵炎、腸管の壁肥厚など腹部超音波より多くの情報が得られます。しかし、全身状態が悪いとき腎機能も低下しており造影剤が使用できないこともあります。
7. 血管造影:腸間膜動脈閉塞症を疑うときや、消化管出血、肝臓からの出血を疑うとき行います。
8. 腹腔穿刺:腹水が貯留しているとき、その性状を把握するために行います。

以上の検査を行いますが、症状を正確に把握して確定診断を得るために、敢えて鎮痛剤を使用する前に行うこともありますのでご理解ください。また、必ずしも全部これらの検査を行うわけではありません。より負担がかからない検査から始め、診断がつけばそれ以外の検査は省略します。

急性虫垂炎 急性虫垂炎 の項 を参照してください。
消化管穿孔

消化管穿孔による腹膜炎


 突然の激しい腹痛で発症します。通常腹部は板状硬といい、板のように硬くなります。胸部・腹部レントゲンなどで腸管外の異常ガス像が認められれば消化管穿孔による腹膜炎と診断がつきます。胃十二指腸潰瘍の既往がある方や、CT検査で胃・十二指腸壁の肥厚が確認された方は胃十二指腸潰瘍穿孔を強く疑うことができますが、どの部位の穿孔なのか確定することは非常に困難です。胃十二指腸潰瘍穿孔と診断されても、発症直後で胃が拡張しておらず、炎症反応もそれほどない場合は手術を回避し、鼻から胃へチューブを挿入し、食事をしばらく休むことによって経過を観察する場合もあります。最近は胃酸分泌を強く抑制する薬剤(PPI)が登場して潰瘍穿孔は減少しています。しかしひとたび穿孔するとたいていの場合は緊急手術となります。

腹腔鏡下手術:胃十二指腸潰瘍穿孔を強く疑う方で、発症からさほど時間が経過しておらず(24時間以内が望ましい)、全身状態が良好であり上腹部に手術の既往がない方は腹腔鏡で観察しながら手術を行います。通常大網という胃からカーテン状に広がる脂肪を穿孔部に被覆固定する術式です。汚れた腹腔内を多量の生理食塩水で洗浄し、ドレーンを挿入します。特殊な場合を除き原則的には術前に完全な確定診断は得られませんから、診断が異なった場合、出血、腸管損傷などが起こった場合、腹腔内汚染がひどくより徹底した洗浄ドレナージが必要と考えられた場合などは開腹手術に移行することがあります。

開腹手術:小腸や大腸の穿孔による腹膜炎は、細菌性腹膜炎となりますから全身状態がより不良になる場合が多くなりますので、一刻も早く原因を除去し、徹底した洗浄ドレナージをする必要があります。それゆえ治療法としてはそのほとんどが開腹手術となります。原因は大腸癌に起因する穿孔や、憩室穿孔、外傷性穿孔、特発性穿孔などがあります。穿孔部位を同定し、原因を特定し、状況に応じて穿孔部の縫合閉鎖、あるいは穿孔部を含む腸管切除を行い、腸管吻合を行います。すぐに消化管吻合を行うことが危険だと判断されるときには、腸瘻や人工肛門などを造設することがあります。腹腔内を生理食塩水で十分洗浄しドレーンを留置します。


 そのほか稀な穿孔による腹膜炎として胆嚢穿孔があります。急性胆嚢炎により胆嚢壁全層に壊死が起こり穿孔するものです。緊急手術により胆嚢摘出、さらに総胆管結石があれば総胆管切開を行い、石を取り出す操作をしなければなりません。

 

腸閉塞症 腸閉塞症 の項 を参照してください。
消化管出血

消化管出血


 出血は患者さんに大きな不安を抱かせ、大量出血をきたせば出血性ショックに陥り生命の危険を伴うことがあります。診断とそれに引き続く治療について迅速な対応が必要です。上部消化管出血では、胃十二指腸潰瘍からの出血が最も多く、次いで急性胃粘膜障害(AGML)、食道・胃静脈瘤、胃・十二指腸腫瘍からの出血、Mallory-Weiss症候群などがあります。大腸による出血はやはり大腸癌が多く、その他、憩室炎出血、虚血性大腸炎、潰瘍性大腸炎、動静脈奇形、痔疾患などで見られます。小腸では小腸潰瘍、クローン病、小腸腫瘍、メッケル憩室などで出血が見られます。
近年内視鏡と処置具の改良により消化管出血に対する止血率は向上しました。上部消化管の出血はまず内視鏡で確認し、止血を試みます。また、血管造影法により消化管の出血部位を確認し、その血管に対して塞栓物質(コイル)や血管収縮剤を注入することで出血に対する治療が可能となる場合もあります。それでも止血困難であるときに外科的治療が必要となります。タイミングを逃さないように原疾患と患者さんの状態に見合った手術法の選択が重要です。

急性胆嚢炎

急性胆嚢炎


 急性胆嚢炎の約95%は胆嚢結石が原因となり、胆嚢は炎症により壁が厚く拡張し、そのため腹痛が出現します。超音波やCT検査で胆嚢内に結石を確認し、胆嚢壁の肥厚が認められれば診断が可能です。約5%に結石を伴わないものがあり、無石胆嚢炎といいます。腫瘍などによる胆嚢管の閉塞や、胆嚢動脈閉塞、長期絶食により胆汁のうっ滞が起こり胆嚢炎を生じることがあります。治療方針には現在2種類あり施設によって異なります。急性胆嚢炎に対して早期に手術を行う場合と、炎症鎮静後待機的に胆嚢摘出を行う治療法があります。当院では、抗生物質で鎮静化をはかり、約2〜3週後に待機的手術を行うことが一般です。炎症が激しいときは、超音波誘導下に細い針を刺して胆汁を吸引する処置をすることにより症状軽快することがあります。それでも効果なければ経皮経肝胆嚢ドレナージといい、チューブを胆嚢内に留置します。炎症のコントロールがついたところで手術を行います。
 手術は胆摘術です。ほとんどの患者さんでは腹腔鏡的胆嚢摘出術で摘出可能ですが、炎症の激しかった患者さんは開腹術に移行することがあります。

急性腹症の手術

 予想している診断名、最終的な診断名で手術の内容は大きく異なります。目的とするのは原因となる病変の特定、原因の除去、そして化膿性腹膜炎や腹腔内膿瘍を中心とする合併症の予防です。このため、多くの場合に腹腔ドレーンという、腹腔内の汚染を体外に導き出すための管が腹壁上に留置されます。

急性腹症手術の合併症  これまでの説明をしてきた疾患以外にも、緊急手術を必要とする急性腹症の原因となる疾患がありますが、基本的には迅速に診断を行い、適切な治療をすることが大切です。

 緊急手術と待機手術の最大の違いは、緊急手術では疾患の診断が完全に付かない場合があるのみならず、患者さんの全身状態も完全には把握しきれないまま手術に臨まなければならないことです。従って麻酔に対する危険性、手術中の管理、術後合併症などの面で、予測できないことが起こる可能性は通常の待期的手術より大きいと言わざるを得ません。

 以下に急性腹症に対する麻酔、手術に伴うと思われる危険性についてご説明します。

(全身麻酔に対する危険性) 緊急手術の場合、必要最低限の検査にとどめているため薬剤に対する反応、血圧の維持、尿量の確保などの麻酔中の管理に対して予想がつかないことが起こり得ます。また、通常の待期手術は胃内容が貯留していない状態で全身麻酔を行いますが、緊急手術となると、胃内容が残存している場合が多く、気管内チューブ挿入時誤嚥を起こし、重篤な肺炎をおこす可能性があります。
(手術に対する危険性) 通常の手術の場合には、患者さんが手術に耐えられるかどうかをさまざまな検査を行い調べてから手術に臨みます。例えば心臓や肺や肝臓や腎臓に病気があるか、あるならどう対処すればいいかなどについて検査し、検討します。しかし、緊急手術の場合これらの検査は不十分なままで手術を行わざるを得ませんので、手術中または手術後に心臓、肺、肝臓、腎臓などに障害が起きる可能性は通常の手術より高くなります。
(腹膜炎) 消化管穿孔(胃や腸に穴があくこと)を起こすと腹膜に炎症が起こります。どこに穴があいたかによって炎症の程度には差がありますが、どこの穴であっても、あいてからの時間が短いほど軽傷であり、時間が経つと非常に危険です。穿孔以外の原因も含め、お腹に中に化膿性の炎症が起こった状態を(化膿性)腹膜炎といいます。腹膜炎に対する治療の基本はお腹の中を徹底的に生理食塩水で洗浄することと、汚れた液体をお腹の中にたまったままにしないようにあらかじめ液体のたまりそうな部分にチューブ(ドレーン)を入れておくドレナージという処置です。このように徹底した治療で多くの場合はきれいに治癒しますが、汚れがひどいときなどにはドレーンを入れておいた以外の部分に汚れがたまり、膿となって発熱などの原因になることがあります。これを遺残膿瘍と言い、ドレーンの位置を変更したり、ときには再手術でドレーンを入れ直したりする必要が生じる場合もあります。
腹膜炎の術後に腹膜炎はきれいに治っても、お腹の傷が化膿する事がまれではありません。この創感染は術後すぐにわかることもありますが、一見きれいそうな傷が1週間くらいしてから赤くなって膿が出て来ることもあります。汚れた傷は中に膿がたまらないように開放しなければならず、重症の場合には手術時に閉じたお腹の傷を腸管が見えるところまで開けなおすこともあります。また重症な創感染が予想される場合に、お腹の創が開いてしまうのを防ぐためにあらかじめ減張縫合というがっちりとした閉腹の方法を取ることや、敢えてしっかりと腹壁を閉じず、皮下を開放したままで手術を終える場合もあります。
(消化管の切除、吻合について) 消化管に穴があいたり、消化管の一部の血流が障害されて生きが悪くなってしまった場合、その部分の消化管を切除して縫い合わせなければなりません。これを吻合と言います。しかし腹膜炎が高度で全身状態が不良なときは、縫い合わせてもうまくつながらない(吻合部縫合不全)可能性がありますので、胃瘻、腸瘻、人工肛門といった緊急避難的な手術を行うことがあります。吻合を行なった上でこのような手技を付加する場合と、吻合は全く行なわず、この手技だけを行なって状態の改善を待つ場合があります。

 このページは虎の門病院消化器外科上部消化管グループのサイト内にあります。サイトトップはこちら